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Developers Summit 2024 セッションレポート

"ユーザーインサイト"を正しく理解した、プロダクトづくりを──テクノロジーでジェンダー格差解消を目指すエンジニア起業家の挑戦

【16-B-7】データドリブンでジェンダーダイバーシティ推進を当たり前にしたいエンジニアの葛藤と実現に向けての0→1プロダクト開発

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 2024年6月に公開された「ジェンダー・ギャップ指数」において、日本は0.663という先進国中最下位の数値となっている。IT領域においてもまだまだ女性エンジニアは全体から見ると少なく、「男性社会」の中で戦わなければならない女性も多い。こうした性別によるバイアスや格差をなくすべく、bgrass株式会社でCEO兼CTOを務める咸多栄氏は、女性向けハイキャリア転職サービス「WAKE Career」(旧Waveleap)を立ち上げた。ローンチにおいても、ビジネスサイドとエンジニアサイドの両方の立場で考え、経営判断を下してきた咸氏。開発で重要視すべき点やフェーズごとに意識すべきバランスなどについて語った。

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「プロダクトを作らない」ことから始めたWAKE Career

 講演の冒頭、咸氏は「3回」という数字を挙げた。これはWAKE Career(旧Waveleap)で資金調達するまで、半年間にピボット(路線変更)を行った数だ。

bgrass株式会社 CEO/CTO 咸 多栄(だむは)氏
bgrass株式会社 CEO/CTO 咸 多栄(だむは)氏

 半年で3回という方針転換の根底にあったのは、事業立ち上げの背景にあった「女性だけをエンパワーメントしても根本的な問題は解決しない」という思いだ。「企業側の環境や社会構造を変えられるようなプロダクトを作らないと、ジェンダーギャップは解消しない。だからこそ、企業向けに何かインパクトを残すことができないかと考えた」と咸氏は語る。

方針転換から4カ月で資金調達に成功
方針転換から4カ月で資金調達に成功

 1回目のピボットは、女性エンジニア向けの1on1サービスから企業向けのDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)コンサルへの転換だ。理由は「1on1サービスを企業導入として進められないかと考えたが、インパクトが弱いと感じた」としつつ、そこで始めたDEIコンサルでは、行動経済学やデータをもとにした企業研修の提供などを実施した。

 しかしながらこの事業モデルはうまくいかず、2回目のピボットへ。「さまざまな企業にヒアリングを行った結果、日本のジェンダーギャップ解消が進まないのは原因を把握せずに自社に合った方法ではなく、一律で管理職向け研修などを行なっているからなのではないかと仮説を立てることができた」と振り返る。

 2回目のピボットでは、「すでに海外ではDEIテック市場が盛り上がってきていた」ことを背景に、データドリブンなDEI SaaSプロダクト(プラットフォーム)へと軸足を移すこととなる。

 このプラットフォームは企業の現状を可視化するだけでなく、分析結果に合わせたアクションが可能なものだった。プロダクト開発に当たっては、プレスリリースや営業資料、ランディングページで反応を見たうえでさまざまな企業に営業をかけるといった活動を行った。

 ところが結果は、「資料請求ゼロ、商談獲得数ゼロ、SNSでの話題性もゼロ」でニーズがないことが検証できた。それでも、営業や商談をしながら、企業や女性エンジニアにユーザーヒアリングを開始。1-2か月という期間で企業20社以上、女性エンジニア50人以上に聞き取りを行った結果、「女性エンジニアの採用を積極的に行いたい」というユーザーインサイトを発見した。

 「『ジェンダーダイバーシティを実現したい』とまではいかなくとも、『女性比率を上げたい』と考えている会社は多いことが分かった。また、より現実的な問題として、『女性エンジニアなら予算が降りるので、人員確保のために女性を採用したい』と語る企業もあった」(咸氏)。

 このニーズに応えるべく、「採用優先度の高い『エンジニア』という職種で活躍する女性を紹介することで、DEI推進を図る」というピボットを行った結果、完成したのがWAKE Career(旧Waveleap)だ。

営業資料だけでユーザーニーズを図るという手法も生きた
営業資料だけでユーザーニーズを図るという手法も生きた

 WAKE Career(旧Waveleap)について咸氏は「元々のプロダクトに採用要素を加えただけだったが、PR Timesでリリースを出したところ、オーガニックで約3日で18社から問い合わせがあった」と振り返る。「確実にニーズがある」と判断した咸氏は、いよいよ開発に進むことを決めた。

 女性エンジニアの事前登録者数は約150人におよび、"プロダクトなし"の状態にもかかわらず約26社との商談が成立。 

 「シード期でのエンジニアの役割は、いかにプロダクトを作らずに、ユーザーニーズを測れるかだ」と咸氏は語る。

 「ジェンダーギャップの解消が大きな社会課題であることは、多くの企業が理解しているところ。しかし現実問題として、企業は利益を追うものであり、これらを両立させることは容易ではない。それでも諦めずに調査を続けたことによって、WAKE Career(旧Waveleap)というプロダクトは生まれた。だからこそすぐに手を動かすのではなく、ユーザーヒアリングに力を入れるべきだ」(咸氏)。

 かつては自らも理想のまま、「オーバースペックなプロダクトを作り込んだことがあった」と反省する咸氏。エンジニア起業家であればすぐに手を動かしたくなるのは当然だと理解を示しつつ、「作れるけど、作らない。我慢するのがすごく大事だと学んだ」と自らの体験を総括した。

企業が採用活動を通してダイバーシティ精神を醸成できる仕組みを作った
企業が採用活動を通してダイバーシティ精神を醸成できる仕組みを作った

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ユーザーが持つ「答え」にコミットするMVP開発

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この記事の著者

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

CodeZineは、株式会社翔泳社が運営するソフトウェア開発者向けのWebメディアです。「デベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディア」をコンセプトに、現場で役立つ最新情報を日々お届けします。

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中島 佑馬(ナカシマ ユウマ)

 立命館大学卒業後、日刊工業新聞社にて経済記者として勤務。その後テクニカルライターを経て、2021年にフリーランスライターとして独立。Webメディアを中心に活動しており、広くビジネス領域での取材記事やニュース記事、SEO記事の作成などを行う。

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